和敬塾のメリット・デメリット 4年久間木
3年間住んでわかった和敬塾のメリット・デメリット
日常生活の楽しさは他の寮生が十分に語ってくれているところですので、私久間木からはできるだけ違った視点から和敬塾のメリット・デメリットについて記載します。
メリット① 目白台は理想的な住環境
和敬塾のある目白台の良さは、何といっても住む場所としてとにかく理想的だということに尽きます。なかでも夜間の目白通りの静けさは特筆すべきもので、私自身この土地の最も気に入っているところです。
「用途地域」という考え方を使うと、より目白台の魅力が伝わりやすいかもしれません。都市を住宅、商業地、工業地などのいくつかの種類に分類することで、互いの生活環境や業務の利便性を改善させようという都市計画法上の考え方です。
いわゆる「日当たりのいい閑静な住宅地」とは、この用途地域のうち「第一種低層住居専用地域」という区分を一般に指しますが、和敬塾の位置する目白台一丁目もこの地域に当てはまります。
この地域はあらゆる用途地域の中でも最も厳しい制限が課され、原則住宅や学校、神社仏閣以外は建てられないため、理想的な住環境が将来的にも保証されています。つまり、突然に大規模な複合商業施設や高層ビルが建設されて周辺環境が一変し、人の流れが変わることがほぼないということです。
この第一種低層住居専用地域に指定されている地域は東京都心、とりわけ山の手線内においては非常に限られており、恵比寿、大崎、五反田、広尾、本駒込、白山、小日向、目白台、関口など、高級住宅街のうちごく一部に留まります。そのため、同地域は都心での都市生活と抜群の住環境の両方を享受できる稀有な立地と言えるでしょう。
加えて、2020年度の目白台一丁目における犯罪件数はわずか10件と、都内屈指の治安の良さを誇ります。また、地震発生時に液状化しにくいほか、延焼の危険性も低く、さらに高台に位置していることから浸水、冠水の恐れもないため、生涯暮らす家を探している方にはぜひおすすめしたいエリアだと思っています。
こんな理想的な住宅街に位置する大規模な学生寮は他にほとんど聞いたことがありません。
メリット② ワケメがうまい
個人的に大満足の料理を提供してくれています。
八角入りという超本格的な豚の角煮、山椒のきいた中華、日によって味噌の種類が違う味噌汁など、毎日バラエティに富んだ献立で飽きることがありません。ちなみに、朝食で提供されるパンは、日本の本格派フランスパンの草分けで130年の歴史を持つ関口フランスパンのパンを使用しています。
ここまで安価に栄養バランスに優れたおいしい食事を提供する食堂は他にないといっても過言ではなく、大学食堂にもぜひ見習ってほしいです。コロナ前までは、自家製のババロアやローストビーフが食べ放題という神イベント(立食パーティー)が頻繁に催されていました。細川邸の御食堂で頂いたコース料理もとても美味しかったです。
私のイチオシはお昼に300円で食べられる天津飯です。ぜひ食べてみてください。
メリット③ 品格ある土地柄と貴重な建築
和敬塾はもともと、肥後細川家の下屋敷が置かれた場所に位置しています。和敬塾を中心に、現在の肥後細川庭園、永青文庫、文京区立目白台運動公園など、細川家の名残は今でも随所に残っています。
目白通り一帯は「総理通り」とも呼ばれ、田中角栄邸、細川護熙が幼少期を過ごした和敬塾本館、鳩山一郎の邸宅である鳩山会館、現在はホテル椿山荘になっている山縣有朋邸、眼下には現在の大隈庭園である大隈重信邸と、歴代の総理大臣が居を構えた場所として知られます。打倒藩閥政治を謳った大隈重信が、薩長藩閥の代表者山縣の邸宅に見下される低い土地に邸宅を持っていたのは面白いポイントです。
和敬塾の中心には、細川家第16代細川護立侯によって1936年に建てられた、昭和初期の代表的華族邸宅である和敬塾本館(旧細川侯爵邸)があります。薔薇戦争後のイギリスで発展したチューダー様式の洋館です。
戦後はGHQによる接収を経て、1955年から公益財団法人和敬塾の所有となりました。細川家がこの素晴らしい洋館を手放した経緯は詳しく分かっていませんが、一説には戦後旧華族に重くのしかかった税金から逃れるためであったと言われているようです。
美しい英国チューダー様式の建築
卍崩しの東洋的な意匠を施した大階段、チューダー様式の意匠、愛新覚羅家の末裔が残した「和敬」と書かれた書道作品がある書斎など、貴重で魅力的な要素が詰まった建築ですが、特筆すべきはGHQが本館を荒らしたあとも、こうして当時の様子が極力残されているということです。数々の重要な建築が博物館やレストランになって当時の内装が変わってしまっている中、この素晴らしい建築がそのまま残されているということは和敬塾の経営努力の賜物と、とてもありがたく思っています。
歴史・美術・建築好きの方であれば、清泉女子大の島津家本邸、東大駒場キャンパス近くの旧前田侯爵邸と建築様式を比べてみるのも面白いと思います。
和敬塾本館の前を通ると、戦前の華やかな社交の様子が目に浮かび、ベル・エポックを思わせる華麗で享楽的な大正〜昭和初期の文化が思い起こされます。このような場所で学生生活を送れることには感謝しかありません。
これだけの絶大なメリットを考えれば、大浴場のマットが汚いことや、深夜に奇声が聞こえてくることなどは私にとっては塵のように些細な問題であり、大学在学中と言わず生涯住み続けたいと入寮当時から思っていますが、次はいくつか気になるデメリットを挙げていきます。
デメリット① 交通アクセス
前述した快適な住環境とトレードオフの関係ではあるものの、交通アクセスの利便性が低いということはどうしても言わざるを得ません。最寄り駅は有楽町線護国寺駅、副都心線雑司が谷駅、東西線早稲田駅と3つあり、これらの路線を使えば都心のあらゆるエリアに容易にアクセスできるものの、どの駅からも徒歩十数分かかるという不便さは既に前回のブログで和田君が指摘している通りです。ただ、移動、食事など生活全てをスタッフが手配していたであろう旧華族の方々には、交通アクセスなどさほど問題ではなかったのでしょう。自家用車、タクシーを日常的に使う方には住みやすいかもしれません。その意味では、西麻布に性質が似ているような気がします。
デメリット② 天井
天井は、和敬塾に住んでいて私が最も不満に思っているところです。
どのような素材が使用されているか分かりませんが、なにかの拍子に天井に触ると白い素材がボロボロと少しずつ剥がれ落ちてきます。住むのがいくら男子大学生だからといって、このように住居としての基本要素がいい加減なのはいかがなものかと思います。強めにドアを叩かれると部屋が揺れ、天井の素材がパラパラと落ちてくるのはどうにかしてほしいです。
個室の天井。なんとかしてほしい。。
デメリット③内装がダサい
部屋に使われている色づかいも曲者で、インテリアが難しいことが難点です。フローリングや収納部分、ドアはライトブラウン、壁はコンクリート・白の2色、備え付けのカーテンは濃い緑色と、変わった組み合わせのため、部屋全体が垢抜けない印象になってしまいます。内装がもっとシンプルであれば家具の選択肢も幅が広がっただろうに、といつも思っています。
まとめ
どこよりも密接なコミュニケーションが自慢の和敬塾ですが、住環境も負けず劣らず魅力だということをお伝えできていたら幸いです。
駅チカで趣のない四角い建物で暮らすよりもむしろ、広大な敷地で緑に囲まれ、時間的・空間的な奥行きのある生活ができることこそ最高の贅沢なのかもしれないと、数年間の寮生活を通して感じました。
文責 久間木
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